トランセンデンス(原題:Transcendence)

原題まま。ジョニー・デップ主演。

人工知能PINNの開発研究に没頭するも、反テクノロジーを叫ぶ過激派グループRIFTに銃撃されて命を落としてしまった科学者ウィル(ジョニー・デップ)。だが、妻エヴリン(レベッカ・ホール)の手によって彼の頭脳と意識は、死の間際にPINNへとアップロードされていた。ウィルと融合したPINNは超高速の処理能力を見せ始め、軍事機密、金融、政治、個人情報など、ありとあらゆるデータを手に入れていくようになる。やがて、その進化は人類の想像を超えるレベルにまで達してしまう。

よくある「AI暴走もの」かと思いきや、未知のものに対する人間の反応や矛盾が描かれていて面白かった。
AIの進歩の仕方が現実的でないとか、ウィルスに対する脆弱性がどうとかは表面的なことに過ぎない。

人間は未知のものを怖がる

死ぬほどのケガを負っても、生まれつき機能しない器官も、ナノマシンで治してしまうだけでなく、人間以上の能力を与える。
嫁(レベッカ・ホール)は博士(ジョニー・デップ)のことを愛してはいたが、進化し続け地球環境すらコントロールし始める博士AIに恐怖を感じ、「博士ではないのでは」と疑いを持ち始める。

観ている側も「そうだそうだ、そいつは怪しいぞ」といつの間にか感じている。
「よくわからない、怖い、ひどいことになるかもしれない、だから排斥しよう!」
この映画のテーマには、観客までもが含まれているのである。

人間の矛盾

序盤、テロによって博士が襲撃される。
「AIの恐怖を掲げながら人間を平気で殺せる」というのは作中でも言及されている、わかりやすい矛盾である。
(表現の仕方は違うが、現実にも似たようなことが起こる。残念なことに)

自分を襲ったテロリストの一味に参加してしまう友人(ポール・ベタニー)の行動も矛盾の一つ。
最初と最後だけ見たなら、どう考えてもおかしい。
しかし途中の動機づけ次第で、人の思考はどうなるかわからない。

作戦への協力を申し出た嫁の友人(モーガン・フリーマン)も、嫁ごと博士AIを攻撃する決定を下す。
助けてくれ、と懇願するケガ人を見殺しにする。
人を救うと言いながら、人を傷つける。これもまた矛盾だ。
博士AIは最後まで誰も傷つけなかった。

ラスト

博士AIは大怪我を負った嫁をナノマシンで治療するが、同時に嫁に内包されていたウィルスを取り込んでしまい、自壊しはじめる。
嫁は体内のナノマシンにより博士AIと意識の同調が起きる。

博士AIによる環境のコントロール(改善)は、実は嫁の夢であった。

博士AIは地球を支配したかったのではなく、嫁の夢を実現したかっただけだった。
嫁が博士を信じきれていたらこうはならなかったかもしれない。

テロリズムによって人生をメチャクチャにされた夫婦が、抱き合いながら朽ちていく様はなんとも悲しい。

博士が襲撃されたのがそもそもの始まりだったのに、テロリストの活躍によって人間側の「勝利」で終わるという展開はあまり感じの良いものではなかった。
しかしあえてそういうラストにすることで、観客の中に何かを残したかったんじゃないかと思う。

SFを下地にうまいこと悲劇を描いている。おすすめ。

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